2025年、アメリカの象徴ともいえる都市・ニューヨークで、歴史的な出来事が起こりました。
ズーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)──ウガンダ出身のイスラム教徒で、インド系移民の血を引く社会主義者。
彼がニューヨーク市長に当選したのです。
アメリカ史上初のイスラム教徒市長誕生。
そして、ウォール街・メディア・政界を巻き込む「マムダニ・ショック」が始まりました。
彼はいったい何者なのか? その発言から見える政治哲学を追ってみましょう。
第1章 ウガンダ生まれ、クイーンズ育ちの“異端の政治家”
ズーラン・マムダニは、ウガンダ・カンパラで生まれ、インド系移民の家系に生まれました。
幼少期に家族とともにアメリカへ移住し、ニューヨーク・クイーンズ地区で育ちます。
彼の政治の原点には、移民として生きる苦しみと不平等への怒りがあります。
その思いを彼はこう語っています。
“I think ultimately this is a campaign about inequality… you don’t have to live in the most expensive city in the country to have experienced that inequality.”
(最終的にはこの選挙は「不平等」との戦いです。国で最も高価な街に住んでいなくても、その格差を経験している人はいるのです。)
ー The Guardian(2025年6月26日)
この一言に、彼の政治の軸が凝縮されています。
“富裕層のための政治”ではなく、“働く人のための政治”を取り戻す──これがマムダニの出発点です。
第2章 イスラム教徒として、社会主義者として
マムダニはアメリカ政治の中でも珍しく、信仰と政治理念を融合させるタイプの政治家です。
イスラム教徒としての価値観「共同体・平等・施し」を尊重しながら、
同時にアメリカ民主社会主義者(DSA)のメンバーとして、資本主義の構造的な問題を批判します。
“Government must deliver an agenda of abundance that puts the interests of the 99 percent over the 1 percent.”
(政府は、1%の富裕層ではなく、99%の人々のための“豊かさのアジェンダ”を実行しなければならない。)
ー The Ringer(2025年6月23日)
“I don’t think we should have billionaires.”
(億万長者なんているべきじゃないと思う。)
ー NBC News(2025年6月放送)
マムダニの発言は一見過激に聞こえますが、
その根底にあるのは「富の偏在を是正し、人間らしく生きられる社会を作る」という明確な理想です。
第3章 “第一世界”の中にある“第三世界”
マムダニは選挙演説の中で、「アメリカは国内に“第三世界の現実”を抱えている」とも指摘しました。
彼が意図したのは、アメリカ社会が抱える極端な格差や貧困、医療・住宅の不平等。
“I think we should build a city that is more affordable for everyone, not just for the rich.”
(私は、裕福な人たちだけでなく、みんなにとってもっと手が届きやすい都市を作るべきだと思います。)
ー The Nation(2025年7月号)
彼のこの言葉は、**「第一世界の中の第三世界」**という現実を突きつけています。
表面上は自由で豊かに見えるアメリカでも、
ホームレスや貧困家庭は急増し、医療は高額化、家賃は跳ね上がっています。
マムダニはその矛盾を直視し、ニューヨークを“富裕層の街”から“生活者の街”へと変えると誓いました。
第4章 波紋を呼ぶ“急進市政”
当選直後、彼の政策方針はすぐに議論を呼びました。
住宅支援・教育無償化・公共交通の拡充など、明確に「再分配型」の政策を掲げたからです。
“We have found exactly the way to defeat organized money, which is organized people.”
(組織化された金を打ち負かすには、組織化された人々の力しかない。)
ー The Guardian(同上)
マムダニはウォール街や不動産業界からの資金を拒否し、草の根の寄付だけで選挙を戦い抜きました。
その姿勢は「理想主義」とも「現実離れ」とも評されていますが、彼の信念は一貫しています。
「権力の源泉は金ではなく、人である」と。
第5章 言葉と信念──“明瞭さ”で語る市長
マムダニの発言スタイルも特徴的です。
彼は政治家らしい曖昧な表現を嫌い、明快な言葉で語ることを重視します。
“The language that I use is that of clarity, and I do not believe it is the mayor’s position to be policing language.”
(私が使う言葉は明瞭さの言葉であり、市長が言論を取り締まるべきだとは思いません。)
ー NY1インタビュー(2025年7月18日)
信仰者として、そして社会主義者として──
彼は常に「権力に媚びない言葉」を使うことで、自身の信念を貫いています。
まとめ──アメリカの“多様性”は試されている
ズーラン・マムダニの登場は、単なる政権交代ではありません。
それは、アメリカ社会の「多様性」が理念から現実へ変わる瞬間です。
“I think that in focusing on working people and their struggles, we also return back to what makes so many of us proud to be Democrats in the first place.”
(働く人々とその闘いに焦点を当てることで、私たちはなぜ民主党員であることを誇りに思うのか、その原点に戻るのです。)
ー The Guardian
イスラム教徒・社会主義者・移民出身──
これまで「周縁」に追いやられてきた存在が、今、ニューヨークの中心に立っています。
マムダニの勝利は、アメリカが本当に多様性を受け入れられるかどうかを問う試金石となるでしょう。




