イールドカーブ・コントロール、または長短金利操作とは、長期と短期の金利の誘導目標を調整し、イールドカーブを適切な状態に保つという概念を指します。イールドカーブとは、債券の利回り(金利)とその償還期間の関係を描いたグラフで、横軸には償還までの期間、縦軸には利回りが表示されます。長期金利と短期金利の誘導は以下の手段で行われます。
長期金利:公開市場操作としての国債の買い入れなど 短期金利:当座預金への利率調整など
具体的には、短期金利は日本銀行の当座預金の一部にマイナス金利を適用し、長期金利は10年国債の金利が0%近辺になるように長期国債を買い入れるという操作を行います。このイールドカーブ・コントロールの一例として、日本銀行が2016年に行った「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が挙げられます。
●イールドカーブとは何か
イールドカーブとは、債券の利回り(金利)とその償還期間の関係を示すグラフ、または利回り曲線とも呼ばれます。X軸は償還までの期間を、Y軸は利回りを表します。イールドカーブは、債券投資を行う際の重要な指標の一つです。以下に、2つの具体的なイールドカーブの例を示します。
通常、債券の満期までの期間が長いほど、その金利は高くなります。これは「正常イールドカーブ」または「順イールド」と呼ばれ、右上がりの形状をしています。この形状は、通常の経済状況や金融緩和期に見られます。一方で、「逆イールドカーブ」は右下がりの形状をしており、満期までの期間が長くなるほど金利が低くなります。この形状は、金融政策が引き締められる時期に見られます。
さらに、イールドカーブの形状が変化するパターンについても言及します。グラフの傾きが急になる現象を「スティープ化」、逆に傾きが緩やかになる現象を「フラット化」と呼びます。
スティープ化は、将来の金利上昇が予想され、長期債券が売られる際によく見られます。一方、フラット化は、金利の将来的な動向が不確定な状況でよく見られます。
日本のイールドカーブ・コントロールについて考えてみましょう。これはどのような背景や目的で実施されたのでしょうか。
●2016年の日本銀行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」
日本銀行は、2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この「長短金利操作」がイールドカーブ・コントロールを意味します。具体的な長期金利と短期金利の操作は以下のように行われました。
短期金利:日銀当座預金の政策金利残高にマイナス金利を適用 長期金利:10年国債の金利が0%程度になるように長期国債を買い入れ
日本銀行が行ったイールドカーブ・コントロールの目的は、フラット化したイールドカーブをスティープ化させることでした。この政策が導入されるまでの間、日銀は極端な金融緩和を行い、イールドカーブはフラット化していました。
フラット化により長期債券の利回りが低下し、これが国内の銀行や生命保険会社、年金基金の資金運用に悪影響を及ぼし、経営を悪化させる要因となっていました。しかし、日銀は物価上昇率が安定的に目標水準を超えるまで金融緩和を続けることを望んでいました。そのため、金融緩和と並行してイールドカーブ・コントロールを実施し、イールドカーブのスティープ化を目指しました。
●政策の目的
2%の物価上昇と金融機関の収益改善 「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の目的は以下の2つです。
量的・質的金融緩和の目的:2%の物価上昇を達成し、デフレから脱却すること 長短金利操作の目的:日銀のマイナス金利導入後、大手銀行や地方銀行の収益が圧迫された問題を解決すること
これまでに何度も行われた金融緩和の目的は、2%の物価上昇を達成し、デフレから脱却することでしたが、その成果はなかなか出ませんでした。デフレ脱却は長年にわたって目指してきた目標であり、今回の金融緩和でも同じ目標が掲げられています。
イールドカーブ・コントロールでは、日銀が長期金利を0%、短期金利をマイナス金利に設定することで、国内の金融機関の収益改善を目指しました。
まとめ
イールドカーブ・コントロール、または長短金利操作とは、長期と短期の金利の誘導目標を調整し、イールドカーブを適切な状態に保つことを指します。イールドカーブは、債券の利回り(金利)とその償還期間の関係を描いたグラフで、通常は満期までの期間が長いほど金利が高くなる「順イールド」または「正常イールドカーブ」を示します。しかし、金融政策が引き締められる時期には、満期までの期間が長くなるほど金利が低くなる「逆イールドカーブ」が現れます。
また、イールドカーブの形状が変化するパターンには、「スティープ化」(傾きが急になる)と「フラット化」(傾きが緩やかになる)があります。スティープ化は、将来の金利上昇が予想される場合や長期債券が売られる場合に見られ、フラット化は金利の将来的な動向が不確定な状況でよく見られます。
日本銀行は2016年に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、これがイールドカーブ・コントロールの一例となりました。この政策の目的は、フラット化したイールドカーブをスティープ化させることで、長期債券の利回りを上げ、金融機関の収益改善を図ることでした。また、2%の物価上昇を達成し、デフレから脱却することも目指していました。
以上のように、イールドカーブ・コントロールは金融政策の一部として用いられ、経済状況に応じて金利の誘導目標を調整し、金融機関の収益改善や物価安定を目指す重要なツールとなっています。